久遠の絆 再臨詔 三章現代~幕末「過去に翻弄される心」

久遠の絆 再臨詔 三章現代~幕末「過去に翻弄される心」


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久遠の絆 再臨詔

目が覚めると、俺はベッドの上で寝ていた。今日から修学旅行。もう帰ってこれないかもしれないという不安を抱きつつ、栞と一緒に家を出た。京都に着いてお寺巡りをしていたら、杵築に声をかけられた。そこで、ようやく俺は、杵築が光栄の生まれ変わりであることを悟った。桐子を俺の呪いから救い出すために転生してきたと言っている。この世がおかしくなったのは、俺が自分の身分を顧みらずに、天から遣われた蛍と結ばれた所為であると。そして、光栄や桐子といった周りにいた人物もその運命に巻き込んだのだと。杵築の突然の告発を受けて混乱した心のまま、俺は鹿ヶ谷の道をあてどなく彷徨い歩いたのだった……

久遠の絆 再臨詔

俺は約束の場所に向かって歩いていた。そこで沖田と待ち合わせしていたが、やって来たのは加藤だった。情報を持ってきたようだが、時間が無いので
「巫女さん」について話してもらおうか
と彼女の情報だけ聞くことにした。将軍の御落胤だという噂があり、名前も無く、人別帳にも載っていないという。彼女のことが公になると困る人物がいるのではと推測された。

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神社に戻って日向ぼっこをしていたら沖田がやって来た。部屋で話をしていたら、子供の声がしたので外を覗いたら、巫女さんが子供達と遊んでいた。
「美しい方だ…でもあれは、心をどこかに置いて来た者の美しさですね…」
そう沖田が呟いた。俺も同感だった。

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沖田は突然咳き込み始め、血を吐いて、そのまま屯所へと帰っていった。夕暮れ時になり、本堂の方から巫女さんの悲鳴が聞こえてくる。慌てて駆けつけるが、大した事はないと大騎に止められた。どうやら、神様をその身に降ろしてお告げをする神懸かりが始まったらしい。

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夜の見回りをしていたら、人の気配がした。その気配から、俺は虚ろな微笑みを浮かべる白い女を思い出していた
「どうなさいましたの?」
巫女さんが声をかけてきた。昼間の彼女とは同一人物とは思えない存在感を感じる。そして、大蜘蛛を退治した時に使ったあの剣を手渡された。俺が手に持つと、その剣は光り出した。
「やっぱりそう…あなただったのね」
巫女さんは泣いていた。
「長かった…会いたかったわ」
彼女の顔が息がかかるほど近づくと、俺は初心のねんねのようにドキドキしてしまった。その時、蛍との別離の記憶が一瞬蘇る。俺は彼女に向かって「蛍」と呟いたが、彼女の今の名前は澪だという。そして、前世の罪を生産するために生きているのだと。前世での彼女は、己の使命を果たさず、自分の感情の赴くままに振る舞い、結果としてこの国を不安定な場所にしてしまったのだと。俺は前世なんてものは信じないし、縛られたくもなかった。しかし、俺は目の前の女性に惚れてしまったようだ。

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澪が苦しみ出すと、大騎が慌てて飛んできた。そして、澪を引きずるように本堂へと連れ帰っていった。俺は大騎の後を追った
「なぜだ……なぜ、あなたの、瞳は私を見ない……」
本堂の中では、大騎が澪にそう語りかけていたが、澪は虚ろな瞳で返事をしない。
「なんとか……なんとか言ったらどうなのだ、巫女よッ!」
大騎は澪を抱きしめ、彼女の唇を貪った。
「大騎!貴様一体何をしている」
俺は思わず本堂に飛び込んでみたものの、正気のない澪は嫌がっている素振りを見せているわけでもないため、俺は彼女を助けだすこともできず、そのまま退散するしかなかった。

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翌日の夜、雪の舞う中を澪がフラっと境内の中を出歩いている。彼女に話しかけようとした時、俺は異様な殺気に囲まれていることに気付いた。俺が離れから飛び出すと同時に、本殿から大騎も飛び出してきた。ここは、この場を離れずに、澪を守る。そこに沖田も助っ人に駆けつけた。敵が境内に入ってきた。それは、以前俺が斬り殺したはずの浪人だった。斬りかかってきた浪人の動きを見切る!俺はほんの一寸後ろに下がった。同時に男の胴を薙ぎ払うが、男は何事もなかったかのように立っていた。立て続けに心臓を、一突きだ!しかし、やはりびくともしない。そんなことを何度も繰り返しているうちに、疲労と恐怖で体が動かなくなった。もう駄目だと思った時、女の笑い声が聞こえてきた。
(わがあるじよ…われをつかうのです…わがちから、あなたに)
どうやらその笑い声は神剣から聞こえてくるようだった。剣を抜くと白銀色の光が放射され、死人達はたちどころに消え去った。

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「やっぱり、死人じゃあ、相手にならんようやな」
観樹が現れた。そして大蜘蛛を召喚するが、神剣相手に役に立たないと悟ると、自ら俺を襲ってきた。だが、俺は観樹とは戦いたくなかった。その想いが剣の光をにぶらせていた。

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「観樹、下がっていろっ!」
そこへ今度は、いつかの山伏が姿を現した。そいつは澪に向かって、土蜘蛛衆頭目の切人と名乗った。そして、浪人を呼び寄せると、そいつを大百足に変身させた。俺は剣を握り締め、念を送った。すると、大百足は一撃で霧となって消えた。
「それは、神剣、天叢雲!!それと使うと言う事は…貴様…鷹久かッ!!!」
切人が驚いてそう叫んだ。

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「引きなさい!土蜘蛛の頭領よ。私の命、お前の歪んだ欲望の為に、くれてやるほど安くはないッ!」
正気を取り戻した澪が、切人に向かってそう言い放った。切人達はやむなく撤退した。沖田がそれを追いかけていった。

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澪の話では、この神社は御上によって造られた一種の霊術装置であり、この神社と巫女は、徳川の御代に仇なす呪いを食い止めるための防壁のようなものだという。巫女は代々霊力の優れた者を、時の権力者が集めてきており、澪は六代目となる。父も母も知らず、名前も取り上げられ、この国に掛けられた呪いを身代わりに受けるだけの人形にされた。そして、それは彼女の与えられた罰なのだと。逃げようにも幼い頃から薬物を与えられ、それに依存する体となっていた。おまけに、薬が作用している間は正気を失ってしまうのだとか。切人は土蜘蛛と呼ばれる一族で、大呪でまつろわぬ神々を蘇らせようとしているようだ。神の依代たる土蜘蛛の巫女が観樹であり、神を降ろせば恐らく死んでしまうだろうと。

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外へ出ると切人が現れた。俺は腰の神剣を抜いて斬りかかったが、その間に沖田が割って入った。そいて、沖田を倒せたら愛宕山へ来いと言い残して消え去った。
「私はねぇ、葛城さん。あなたが憎かった」
沖田は健康と剣才に恵まれた俺への嫉妬心を切人につかれ、俺を倒せば健康な体が手に入ると洗脳されてしまったようだ。襲いかかる沖田。見切る!沖田の一撃をギリギリで躱そうと試みた。しかし、沖田の斬撃は甘くなかった。咄嗟に剣で受け止める。息つく間もなく次の一撃が飛んできた。大きく跳躍して、その一撃を避けた。さらなる追い打ちをかけてくる沖田。力比べなら負けねぇ!その一撃を剣で受け止めた。そして、沖田の得意技である三段突き。躱せないと思ったが、右手が勝手に反応した。まるで刀が意思を持っているかのようだった。しかし、突きを受け切った剣は二つに折れてしまった。

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大好きな沖田を元に戻すため力を貸してくれ、俺は剣にそう念じた。その想いに応え、光を放つ神剣。その光に沖田がほんの一瞬怯んだ。その隙を突いて懐に飛び込んだ俺は、剣の柄で沖田の鳩尾を突き上げた。倒れこんだ沖田の口から、半透明の虫のようなものが出てきた。神剣は粉々に砕け散っていた。そして、沖田は正気を取り戻した。

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「行かれるのですね……」
後ろから澪が抱きついてきた。
「ああ、行かなくちゃあ…な」
俺は後ろを振り向かずに、愛宕山へと歩を進めたのでした。

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神降ろしの儀式はすでに始まっていた。そこには観樹と切人の2人しかおらず、その周囲には怨念から生まれた化け物の姿も。俺は切人に向かって斬りかかったが、神剣を失った俺は、切人に睨まれただけで動けなくなってしまった。切人が再び儀式を再開すると、床いっぱいに描かれた五芒星から黒い霧のようなものが立ち上がる。そして、観樹が苦しみ出した。
「観樹ッ!観樹ぃーーーーーッ!」
俺は張り裂けんばかりに彼女の名を叫んだ。

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「しん…ご…」
観樹が反応した。怒った切人が俺を錫杖で滅多打ちにする。ようやく完全に意識を取り戻した観樹は、俺を救うために切人と対峙した。しかし、観樹の力では切人には敵わなかった。

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重傷を負った観樹は最後の力を振り絞って、俺の呪縛を解く。その場に倒れ込む観樹を見た俺は絶叫した。そして、激しい戦いの末に切人を斬って捨てた。
「お前が守ろうとした者の側には…今、誰がいるの…だろうな?勝ったのは…我ら土蜘蛛よ…」
切人は最後にそう言い残して力尽きた。頭に浮かぶ大騎の顔。俺も致命傷を負っていたが、冷たくなった観樹を御堂から出して、澪の元へとふらつく足取りで向かった。

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御影神社へ辿り着くと、大騎が出迎えた。
「帰ってきたのか……不運な男だ……」
そう言って、大騎が俺にトドメを刺そうとした時
「葛城様…しんご…信吾っ…鷹久!!」
澪がそう叫びながら小走りに近づいてきた。そして、手当てをしようと俺の頬に手を触れる。俺が澪を抱きしめようとしたその時、嫉妬に狂った大騎の刃が澪の胸を貫いた。
「これであなたはもう誰のものにもならない!永遠に……永遠に誰のものでもない……」
大騎は気が狂ったように笑っている。

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結局俺は誰も救えなかった。
もし……もし、生まれ変わりが、あるというなら……今度は……こんどこそは……すまねぇ……澪……すまねぇ……
薄れる意識の中、澪にただただ謝り続けていた……

つづく
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