久遠の絆 再臨詔 三章現代~幕末「神剣の行方、そして……」
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季節は秋になっていた。吉川の事件も次第に風化しつつあったが、俺が吉川を救えなかったのは、自分が状況を正確に把握していなかったことと、神剣「天叢雲剣」が無かったことにつきる。万葉と二人きりで話した時のことだった。俺は万葉に神剣のありかについて尋ねたのだが、万葉は幕末の時代に俺に神剣を渡したのが最後であり、その後の剣の行方は俺しか知らないはずだと言っていた。万葉の話では、土蜘蛛の力に頼らずにこの世を救うには、俺が守護者の資格を引き継いで、天の巫になることしか方法はないという。つまり神になれと。しかし、俺は神などにはなりたくない。とにかく、全ては前世の記憶を取り戻してからだ。

ホームルームは修学旅行を明日に控えて騒がしかった。沙夜先生の笑顔は、相変わらず美しい輝きに満ちていたが、ヤツらが沙夜先生に何かしているのでは?という不安もよぎる。<<あの時>>のように。と、一瞬妙な光景がフラッシュバックしたが、それが何なのかは理解できなかった。修学旅行は、土蜘蛛の太祖が待つ愛宕山六道宮に行く絶好の機会でもあった。そして、母を土蜘蛛から取り返し、千年続いた涙の歴史に終止符を打つのだ。

放課後、汰一にいい加減栞の気持ちに応えてやれと言われたが、俺には他に好きな人がいる。
「万葉なんだ」
俺は正直に打ち明けた。汰一は少し押し黙った後に、俺の方が先約だから仕方ないと言って理解を示してくれた。言っている意味が分からなかったが、とにかくさわやかに決着しました。

その後、オカ研で天野先輩に前世について相談。しばらく診てもらっていたけど、それも今日までだと告げる。
「そう……、そうよね。もう時間がないのよね。本当なら、あなたにきちんと私の名を思い出してから行って欲しかったんだけど。」
と先輩が語る。どうも俺が京都で決着を付けに行くつもりなことを分かっているようだし、俺の前世に関わりのある人物のような言い草だ。そして別れ際には
「時間が無いのは解っているけど、どうか最後まで神剣を求めるのを諦めないで。あなたさえ思い出してくれれば、私はいつでもあなたの元へ飛んでいってあげるから……」
と言ってくれました。

先輩と別れて校門を出ようとすると、沙夜先生とバッタリ。せっかくなので一緒に帰る。すると、季節はずれの雪が降ってきました。はしゃぐ栞をよそに、先生があの時の約束を覚えているかと聞いてきた。こんな雪の日に、俺に追われて追いつめられて、そして命を救われたのだと言う。そうだ、俺はあの日、あの娘に会ったのだ……

真っ白な雪が、攘夷に揺れる京の町に舞い落ちていた。俺の名前は葛城信吾。京の町で、言わば何でも屋のようなことをしている。金さえ貰えれば殺しもやる。今日は、新選組の沖田総司から化け物退治の依頼を受けていた。最近すっかり仕事がなくて、懐が淋しい俺に選択の余地はなかった。

俺が沖田と出会ったのは半年前のある夜のこと。酒を軽く引っ掛けて帰ろうとしたとろこに、浪人風の男とぶつかって揉め事になったのだが、その男は軽くぶつかっただけだというのに腰の刀を抜いてきた。俺はこの浪人者を軽く撫でてやる事にしたが、どうもその男は、何者かに追われている様子だった。俺は峰打ちで男を軽く気絶させてやった。俺は男の財布を物色しようとしたが、そこにただならぬ殺気を感じる。そこに現れたのは新選組だった。どうやら俺が倒した男は攘夷志士だったようだ。俺は剣を抜いた。さっきの男では丁度食い足りなかったところだ。
「いやぁ、済みませんねぇ」
そこに間の抜けた声で、一人の男が男達の間をかき分けて現れた。それが沖田だった。

仕事を引き受けた俺は、化け物が出るという御影神社へと案内された。その道すがら、風に紛れて死んだ妹お鈴の声が聞こえてきた。
「助けて、お兄ちゃんッ、信吾お兄ちゃんッ!」
声が聞こえてきた方に目をやると、そこには数人の子供達にいじめられている娘がいた。所詮、子供の喧嘩じゃねぇか。放っとこうぜ、と先を急ごうとしたが、それに気付いた沖田が悪ガキどもに近寄ると、新選組の羽織を見たガキどもは逃げ出していった。

沖田がガキどもを追いかけていったので、俺は残された娘に声をかけるが、彼女は俺をじっと見たまま黙っている。気まずい沈黙の中、いたたまれずに目を逸らすと
「何をボーとしとるんやっ。かよわい女の子が道端に倒れ伏しとるんやでっ。男ならさっさと手を貸して起こしてやるくらいの甲斐性がなくてどうするんやっ!」
娘はいきなりまくし立て始めた。彼女を助け起こしてやると、俺はそのあまりの豪胆さに思わず笑い出してしまった。
「な・に・が・おかしいんや?」
と言うので、「お前の顔」俺はぶっきらぼうに呟いていた。

娘と別れ、沖田と合流して先に進む。京の町を離れ、愛宕山に近づこうかというところで、山伏のような風体をした大柄な男とすれ違った。人目でかなりできる男だと分かる。男はここから立ち去るように忠告してきた。しかし、そういうわけにもいかない。俺はこの男の気配に見覚えがあったが、思い出すには至らない。なんであれ、この男は敵だ!俺は自分の直感を信じて、剣を抜いた。しかし、男に向かって振り下ろした剣に手応えはなく、男も姿を消してしまった。まるで、狸にでも化かされたかのようだった。

目的の御影神社に到着した。中からこの神社の神官職をしている海藤大騎が出てきて中に案内される。そして、本堂から神社の巫女が出てきて俺に近付いてきた。白い髪に白い肌、白い装束。それに虚ろな瞳をしていた。まるで生きている感じがしない。彼女は冷たい手で俺の頬を撫でた。
「ふふふっ…たかひさ…ふふふふ」
聞き覚えがあるような無いような名前だ。そこに突き刺さる厳しい視線。それは、あの神官のものでした。

本堂に通されて最初に目を引いたのが、中央に端然と佇む、巫女さんの姿だった。本堂の中央に座らされたまま身動き一つしない。作り物にしか見えなかった。かと思えば、突然大きな悲鳴を上げたり、時折笑い声をもらしたりしている。気がふれているとしか思えない。大騎は俺のことをまだ睨んでいるが、俺は大騎の視線を無視する事に決めた。大騎から、依頼の内容を詳しく聞かされた。最近京で噂になっている神社、仏閣ばかりを狙って関係者を食い殺すという大蜘蛛から巫女さんを護衛して欲しいということでした。そして、前日に巫女さんから神託があって、俺に白羽の矢が当たったということらしい。だが、何故巫女さんが狙われているかという質問には答えてもらえなかった。

沖田も屯所へ戻り一人になった。とりあえず近辺を調査してみることにした。門を出たところに、顔見知りの新選組隊員が声をかけてきた。確か、加藤…とか言ったな。この神社の警護で来ているらしい。すぐ裏手の森で人の気配を感じたと言っていたので、その、人の気配がしたって所を調べてみることにした。

森に入ると、確かに人の気配がする。そして、気配の先にいたのは、昼間街で出会った娘でした。苦しそうに倒れこむ娘を抱え、俺は離れへと連れ帰った。苦しむ娘を見ていたら、俺の脳裏にある映像がはっきりと浮かんできた。吐血しながら苦しそうに俺を見つめる貴族風の女性。俺は彼女を「泰子様」と呼び、彼女は俺を「たかひさ」と呼んでいた。俺は自分の手首を切りつけて、そこから流れ出る血を泰子様に与えている。彼女もそれを貪るように飲んでいた。

俺はそれと同じように、目の前の娘に血を与えてやった。ようやく落ち着いた娘は、しばらくして目を覚ます。すっかり元気になった娘だが、俺に変なことをされたと勘違いし暴れだした。ようやく事情を説明すると、別れ際に「ありがとう」としおらしくお礼を言った。最後にお互いの名前を名乗る。彼女の名前は観樹といった。

夜になり、神社の裏手から叫び声が上がる。駆けつけてみると、加藤が浪人風の男二人と斬り合っていた。加藤に応援を呼んでくるように言って、俺は二人と対峙した。まるで操り人形のように虚ろな表情をしていたが隙は大きかった。正面から唐竹割だ!一人目はどうにか打ち倒せた。二人目と戦っている時だった。背後からこいつらよりも強い何者かの敵意に満ちた気配を感じた。

現れたのは女だった。見た目は子供ながらかなりの手練であった。だが、その女は俺の顔見ると、息を呑んで驚いている様子。俺はその一瞬の隙を突いて剣を振り上げた。その刹那、雲から月が顔を出し、その女の姿を照らし出した。待て、これは、この娘は!

俺の手が止まった。その女は観樹だったのだ。俺は理由を尋ねた。
「うちらが普通に暮らす為にはここの巫女はんが邪魔なんや」
彼女は激しい口調でそう叫ぶと、再び襲いかかってきた。しかし、今の彼女には先程までの切れるような殺気はなく、俺はその攻撃をいとも簡単に見切っていた。これで観念したかと思いきや、今度は印を組んで呪文を唱え始める。

大蜘蛛が現れた。沖田が言っていた化け物はこいつだったのか。俺は剣を振り下ろしたがまるで効き目がない。そして、蜘蛛の放った糸に全身を絡め取られてしまい、窮地に陥った。そこに沖田が駆けつけて、どうにか蜘蛛の糸からは逃れられたが、こちらには攻め手がない。

「この剣を…使いなさい…」
俺の頭の中に、直接女が語りかけてくる。そして、神社の巫女さんが現れて、俺に光をまとった一振りの剣を差し出した。俺がその剣を受け取ると、大蜘蛛は巫女さんに狙いを付けた。俺は、巫女を守ろうと、大蜘蛛の前に立ちはだかった。剣を構えると、剣がまばゆい白銀色の光を放つ。その剣で大蜘蛛の肩先を斬りつけると、大蜘蛛は霞のように消えてしまった。それと同時に観樹が肩口を抑えながら呻き声をあげた。
「ここは引くのだッ!」
森の中から、聞き覚えのある男の声が聞こえたかと思うと、観樹は風とともに消え去った。後には屍体一つ残っていなかった。

離れに戻ったが、中々寝付くことができなかった。俺は巫女さんの事を、考えていた。雪のように白い髪、謎めいた微笑。俺の事を、鷹久と呼んだ。いつか、遠い昔に会ったような気がする。いつしか、俺は夢の中でかつて妹が野盗に襲われて殺された時の事を思い出していた。怒りと絶望の中で、どす黒い凶暴な何かが心の底から沸き上がっていた。気が付くと、俺は野盗から短刀を奪い取って、その男に突き立てていた。俺は肉の避ける感触、血の匂い、男達の呻き声に歓喜し、陶酔していた。そして、その側には小さな小鬼が俺に何かを語りかけていたのだ。
(つづく)
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