After… ~忘れえぬ絆~ 12~1月「二人だけのプラネタリウム」
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12月6日

季節は冬に。ガソリンスタンドでのバイトが終わってから、近くの公園でワンゲル部のミーティングがあった。冬山の登山についての話だったが、さすがに新しく入部した経験のない女子三人には無理がある。どうしても行きたいと香奈美達が言うので、近場の山に予行演習として登り、それを見て一緒に行くかどうかを決める事になった。で、その予行演習を2月、本番の穂高へは3月に登る事が決まった。

バイクで帰った紘太郎以外の五人で一緒に帰宅。俺は渚の事を見ている慶生に気付き
「慶生、何見てんだよ?」
と野暮な質問。慌てる慶生。慶生が渚を好きな事が許せない俺ですが、兄として許せないんだからね、と精一杯自分に言い聞かせるのであった。と、そこに見覚えのある人影を見かけた。美雪だった。誰も気付いていないので、後の事は慶生にまかせてトンズラした。美雪を探していると
「やっぱり、あなただったのね」
と後ろから声をかけられた。明かにさっきまで泣いていた顔だ。どうやら男に完全に振られたっぽい。陳腐な言葉で彼女を励まして別れた。
12月10日

まもなく中間試験。何故12月にと思ったら、前後期制の学校のようです。俺ときたら、普段ろくすっぽ授業を聞いていないため試験の範囲が分からない。誰かに聞くのも恥ずかしいので、自分で勝手にヤマを張ることにした。俺が頭をかきむしっているところに、渚がコーヒーを持ってきてくれた。そして、何故か一緒に香奈美まで。香奈美の書いた日本史のノートと、陽子に借りた古文のノートを持ってきてくれたようだ。俺はありがたくいただくことにした。しかし、英語は香奈美も苦手だからということで、一緒に勉強する事になり、英語が得意な年下の渚に教わる事に。この日は徹夜での勉強となった。

それから数日こんな感じで勉強し、中間試験も無事終了した。また慶生が答え合わせを聞き回っているのを、俺はうざったく思いながら聞いている。香奈美は、二人で徹夜で勉強したことを堂々と話してしまった。
「お?なに、汐宮、祐一と一夜を共にしたの?」
紘太郎は面白がってからかった。明かに冗談なのだが、香奈美は顔真っ赤で否定。そんな様子に、ひょっとして?と思ったりするのであった。
12月23日

中間試験の結果は、とりあえず赤点だけは免れたようです。紘太郎の仕切りで、明日は俺の家でクリスマスパーティーをやる事になったので、女の子へのプレゼントを何にするか熟考していた。香奈美には天球儀、陽子にはぬいぐるみ、渚にはキッチン用品をプレゼントする事に決めた。
12月24日

今日はクリスマスパーティー。買ってきたプレゼントを女の子三人に渡した。しかし、事前にそういうのは余計に金がかかるし、急な事だからやめようと約束していたらしいのだが、俺は聞いていなかった。

翌日、前日の大騒ぎのせいか頭がボーっとしている。そこへ香奈美がやって来て、水を持ってきてくれた。香奈美は、プレゼントの天球儀を喜んでくれたようで、早速俺の部屋で見る事にした。この天球儀はプラネタリウムにもなる優れ物で、それに気付いた香奈美は、部屋の電気を消してそれを天井に映してみた。目を輝かせながらそれを見ている香奈美を、俺はじっと見つめていた。
「ねえ、あれ、見て」
と香奈美に言われ、その指差す方向を見る。その時、頬に一瞬暖かい感触を感じた。それが香奈美の唇である事はすぐに分かった。
「ありがと・・・ほんとに」
そして、香奈美が俺にプレゼントを渡した。包みの中にはマフラーが入っていた。香奈美は編み物などを編んだのは初めてだからと恥ずかしがっている。確かにそのマフラーはお世辞にもいい出来栄えではなかった。しかし、得意でもないのに自分のために編んでくれた事を思うと嬉しかった。

「いいよ、これ」
と素直に喜びを表現する。そして香奈美の背に手を回した。
「あ・・・」
香奈美はすっと立ち上がってすぐに電気をつけた。そして、慌しく家へと帰っていった。
再び画面が真っ白に。俺の心に誰かが住んでいると話している例の男女。その人は、命にも代えられない何よりも大切な人だという。
12月31日

まもなく新年ということで、俺は慶生の実家の安慶寺に初詣に来ている。最初に待ち合わせ場所にやって来たのは香奈美と渚だった。二人とも振袖を着ていて新鮮だった。その後紘太郎もやって来たが、振袖なのでバイクには乗れないため陽子は別だった。年明けまでもう時間もないので4人でとりあえず境内へと向かった。

凄い人ごみに揉まれて、俺はみんなとはぐれかかっていた。渚の声は聞こえるが姿が見えない。後ろを見ると香奈美の姿がチラっと見えたので、人ごみを掻き分けて香奈美の元へ向かった。俺を見て安心する香奈美。しかし、香奈美の袖を掴んで付いてきていた女の子は、渚ではなく知らない女の子だった。渚ははぐれてしまったようだ。ひとまず、人ごみから抜ける事にした。

行列から抜け出して二人で息をついているところに、三日市先生が現れた。二人をお似合いだと言う先生に反論する俺と香奈美だったが、先生はそれを制して
「いいのよ、照れなくても。まあ、照れる気持ちも分かるけど・・・。程々にしないと、大事なものをなくしちゃうわ」
とたしなめた。妙に実感がこもっています。そして、別れ際に
「彼女、大切にしなさいね?」
と俺の耳元で囁いていった。その後、二人は手を握り合いながら、しばらく人ごみを眺めていた。その後、人が減るのを待ってからお参りして帰宅した。
1月3日

香奈美から電話があった、電話に出た渚の話しでは今日は俺の誕生日だからみんなでお祝いしようという誘いだった。しかし、渚は正月くらいはゆっくりしたいと乗り気ではないようだ。香奈美と姉妹のように仲がいいのに珍しい。とはいえ無下にもできないし、せっかくだから来て貰う事にした。渚もさっきはああ言っていたが、キッチンで準備を始めたようだ。しかし、夕方になってやってきたのは香奈美だけだった。紘太郎と陽子は不在で、慶生は家の仕事がまだ忙しかったのだとか。香奈美も6人分の食べ物を買ってきたので、処理が大変だった。

宴も終わり、香奈美は家に送って欲しいと言って、胃もたれ気味の俺を引っ張って外へと連れ出した。今日は夜空の星がよく見えた。昔、同じようにこうして二人で星空を眺めていた事を思い出す。星図を見ながら星を眺めていた幼い二人。星図にない明るい星を見つけた香奈美に、俺の両親がそれが木星であることを教えてあげた。惑星の意味が分からない二人だったが、両親は二人が元気に仲良く大きくなったら教えてあげると約束してくれた。それを聞いた香奈美は
「ほんとに?あたし、ユウちゃんと仲良くするの。大きくなったら、結婚するの」
とかわいい事を言っていた。そんな事を思い出してニヤついている俺だった。

その後、香奈美が俺にプレゼントだと言って包みを渡した。ビッグリ箱でした。俺の反応に大笑いする香奈美。あまりにしつこく笑い続けるので
「香奈美、いい加減に・・・」
と香奈美の腕を掴む。
「ユウ・・・」
香奈美の笑い声はいつの間にか止んでいて、二人は見つめ合っていた。香奈美の顔が俺に近づいて、再び柔らかい感触が。
「これが・・・プレゼント・・・」
そう言って去って行く香奈美を、俺は呆然と見送っていた。
再び画面真っ白に。俺の心に住む人はその娘なのかと聞かれるが、よく分からない俺でした。
(つづく)
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